欧米の富裕層に人気がある大型の金貨「チェコスロバキア 10ダカット金貨②」

みなさんごきげんよう、アンティークコイン投資家の葉山満です。

前回に引き続き、欧米の富裕層に人気がある大型の金貨「通称『馬上の聖ヴァーツラフ』と呼ばれる10ダカット金貨」についてこの記事でチェコスロバキアの歴史につてお伝えします。コインの基本情報はこちら。

欧米の富裕層に人気がある大型の金貨「チェコスロバキア 10ダカット金貨①」

守護聖人へ

ヴァーツラフ1世は実在の人物ですが、民族の英雄として祀られ、守護聖人となっています。

ヴァーツラフ1世が殺された後、早くから聖者として信仰を集めるようになり、彼を讃える歌が誕生します。理想のキリスト教徒であり騎士であると伝えられ、民族を守った英雄としても語り継がれています。

中世からの伝説によれば、ヴァーツラフ1世は民族の危機のときに蘇り、眠っている騎士を起こして敵と戦って民族を守るのだそうです。19世紀に民族運動が盛んになってからも、ヴァーツラフ1世をモチーフとした小説や詩が数多く生まれました。

チェコとスロバキアの格差

解説してきたとおり、聖ヴァーツラフはチェコの守護聖人であり、スロバキアとはあまり関係がありません。それにも関わらず、チェコスロバキアのコインに肖像が刻まれることには、チェコとスロバキアの格差を読み取ることもできます。

第一次世界大戦までは、チェコはオーストリアの支配下、スロバキアはハンガリーの支配下でした（なお、オーストリア＝ハンガリー二重帝国の形でハンガリーは形式的な独立を認められるも、オーストリアの支配下でした。よってスロバキアはオーストリアの支配下とも言えます）。チェコは周辺の中欧・東欧の国々よりも早くに工業化が進み、住民の生活水準や教育水準は高かったのです。一方のスロバキアの民衆は農耕と牧畜に従事し、チェコに比べると貧しく教育水準も低い状態でした。

第一次世界が集結してオーストリアが敗北すると、チェコとスロバキアはチェコスロバキア共和国という一つの国として独立します。しかし、チェコが先進地域でスロバキアが後進地域という格差は引き継がれました。こうした格差が、コインの肖像にも表れていると考えられるでしょう。

なお、現在のスロバキアは工業化が進み、後進地域という認識は正しくありません。また、チェコとスロバキアの民族はもともと同じ西スラヴ系の民族で近しく、仲が悪いわけでもありません。現在はチェコとスロバキアに分離していますが、円満離婚と例えられています。

チェコスロバキアの合同と分離

チェコとスロバキアは元々は別の国で、第一次世界大戦後の1918年に合同して共和国となり、1992年に分離しています。わずか100年にも満たない歴史の国ですが、その間に何があったのかを簡単に見ていきましょう。

1918年にチェコスロバキア共和国が誕生しますが、上述のとおりチェコとスロバキアの間には格差がありました。次第に対抗意識を持つようになり、そこにナチスのヒトラーが介入してきます。ヒトラーはチェコの一部の割譲を迫り、それが認められてしまい、チェコスロバキアのうちチェコの部分はドイツの保護領になりました。スロバキアは独立国でしたが、実質的にはドイツの保護国と化していました。ヒトラーは同様にポーランドにも領土の返還などを求めますが、ポーランド側がこれを拒否し、第二次世界大戦に突入します。

第二次世界大戦が集結すると1946年にチェコスロバキア共和国を再建します。社会主義のソ連の圧力があり、1948年にはチェコスロバキア社会主義共和国となりました。

1960年代の経済停滞や言論弾圧に対し、チェコスロバキアでも民族運動が激しくなります。プラハの春と呼ばれていますが、結果的には革命は実現できませんでした。

ソ連でゴルバチョフによるペレストロイカは、チェコスロバキアの社会主義が時代遅れになっていることを表面化しました。民主化運動が今度は邪魔されることなく、選挙で大統領が交代し、1989年に社会主義から民主主義へと変わります。流血が起こらなかったことから、ビロード革命と呼ばれています。

1989年からも連邦国家の体制を維持していましたが、チェコとスロバキアの間に様々な対立が生じたことなどから、1992年にチェコとスロバキアの分離が決定しました。こうしてチェコスロバキアの歴史は幕を閉じました。