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2024.03.20

コイン解説&写真

オーストリア

誰もが知っているアンティークコイン「通称『雲上の女神』フランツ・ヨーゼフ1世編②」

みなさんごきげんよう、アンティークコイン投資家の葉山満です。

前回に引き続きオーストリアの名品コインとして名高い、『フランツ・ヨーゼフ1世の即位60年を記念して発行された100コロナ金貨』。裏面のデザインから、通称『雲上の女神』という名前で呼ばれているコインに描かれているフランツ・ヨーゼフ1世についてお伝えします。コインの基本情報はこちらをご覧ください。

オーストリア・ハプスブルク家の衰退とともに生きた皇帝

16世紀にはオーストリアのみならずネーデルラント(現在のオランダやベルギーのあたり)、スペイン、南イタリア、ハンガリー、ボヘミア(現在のチェコ)にも及ぶ広大な領土を誇ったハプスブルク家ですが、18世紀以降の諸民族の独立運動などによって衰退していきます。広大な領土を支配していたため、各地にもともと根付いていた民族を統治する多民族国家となったハプスブルク帝国ですが、それゆえに民族独立運動に悩まされました。

1848年のパリの二月革命(市民革命)がベルリンとウィーンにも波及して三月革命が起こると、帝国の各地で反ハプスブルク運動が広がりました。三月革命自体は失敗に終わりますが、その後も民族蜂起の炎はくすぶり続けます。

1866年の普墺戦争(プロイセン=オーストリア戦争)でハプスブルク帝国はプロイセンに敗れ、帝国の雲行きはいよいよ危うくなってきます。この頃、ハンガリーで民族の独立運動が高まっており、妥協する形でハプスブルク帝国は「オーストリア=ハンガリー二重帝国」として実質的にハンガリーの独立を認めます。

オーストリア=ハンガリー二重帝国では、フランツ・ヨーゼフ1世がオーストリア皇帝とハンガリー王を兼ね、議会はそれぞれの国にあって独立している形となりました。フランツ・ヨーゼフ1世の治世は、諸民族の独立運動に悩まされ続けることとなりました。

その後、第一次世界大戦でオーストリアが敗北すると、オーストリア=ハンガリー二重帝国、すなわちオーストリア・ハプスブルク家は滅亡します。フランツ・ヨーゼフ1世は第一次世界大戦の終結前に亡くなったため、厳密にはハプスブルク家最後の皇帝ではありません。ただし、ハプスブルク家が衰退していく時期の皇帝を務めたため、ほとんど最後という意味で「最後の皇帝」と形容されることが多いです。

皇帝の死と第一次世界大戦での敗北

第一次世界大戦が勃発したのは、サラエボ事件がきっかけでした。サラエボ事件とは、1914年にボスニアの首都サラエボでハプスブルク家の皇位継承者であるフランツ=フェルディナントが、セルビア人の青年に射殺された事件です。

サラエボ事件を受けてオーストリア=ハンガリー二重帝国の皇帝フランツ・ヨーゼフ1世と政府がセルビアに宣戦布告し、第一次世界大戦に突入しました。事実上はドイツ、オーストリアの同盟国、ロシア、フランス、イギリスの協商国との戦いになりました。

オーストリアにとって戦局が悪化する中、フランツ・ヨーゼフ1世が1916年に亡くなります。彼の後継者としてカール1世がオーストリア=ハンガリー二重帝国の皇帝に即位しますが、戦局は芳しくありません。

1918年、戦争はドイツ、オーストリアの同盟国側の敗北に終わります。同年にカール1世は退位し亡命し、オーストリア=ハンガリー二重帝国は消滅しました。

近代的な国造り

ハプスブルク家の衰退期の皇帝だったため、政治の面ではあまり華々しい印象がないフランツ・ヨーゼフ1世ですが、オーストリアでは「国父」と呼ばれ国を象徴する偉人となっています。

フランツ・ヨーゼフ1世の最も大きな功績の一つが、近代的な国造りです。1857年、ウィーンを取り囲んでいた城壁を撤去し、全長5.3キロメートルの環状大通り「リングシュトラーセ」を作りました。

リングシュトラーセ沿いには豪華な宮殿や新古典様式の帝国議会、現在の国立歌劇場などが作られ、19世紀末のウィーンの芸術文化が花開くことになりました。

現在も、美術史博物館、自然史博物館、オペラ座、新王宮、ブルク劇場などが並び、「世界で最も美しい大通り」と呼ばれています。ウィーンの文化の成熟を語るとき、フランツ・ヨーゼフ1世は欠かせない存在となっています。

后妃エリザベートへの愛情

フランツ・ヨーゼフ1世は、后妃エリザベートを溺愛していたことでも知られています。絶世の美女エリザベートに一目惚れして猛アタックし、フランツ・ヨーゼフ1世が23歳、エリザベートが16歳の頃に二人は結婚します。

フランツ・ヨーゼフ1世は仕事が忙しすぎてあまりエリザベートに構うことはできなかったのですが、エリザベートに対する確かな愛情を感じられるエピソードが多数残されています。例えば、彼はもともと倹約家で知られていたのですが、浪費が好きなエリザベートが不自由しないようにより倹約に努めるようになったそうです。

『雲上の女神』の金貨では、表面にフランツ・ヨーゼフ1世、裏面にエリザベートが描かれています。金貨が彼の愛情を象徴しているかのようです。

まとめ

フランツ・ヨーゼフ1世とオーストリア皇帝即位60年記念の100コロナ金貨について解説してきました。オーストリアのコインの中でもずば抜けた名品なので、いつかは手に入れたいものです。

芸術性の高さに加えて資産防衛にも役立つ大型の金貨です。機会があったらぜひご覧いただければと思います。

みなさんにアンティークコインで幸あれ!